一寸先も見えない、全くの暗闇の中を左手を壁に添えて宝号を唱えながらゆっくりと歩く。
頼りになるのはひやりとした左手の感覚と、前後の人が唱える宝号の声のみ。
しばらく、そろりそろりと進んでいく。
本当に足元も見えないので、前の人の唱える宝号を追いかけるので必死だった。
すると、突然後ろから私の右側をかなりの存在感があるものが
「ザザザザザザザザザザザザ」
と通り過ぎた。
床下に草むらなど当然ないのだが、腰丈ほどの草むらをかき分けて早足で歩いているようなイメージ。
それは明らかに人間の速度ではなく真っ暗闇の中にいてもさらに黒い、影のように感じた。
徐々に明かりが見えてきて、ようやく出口につく。
後ろを歩いていた妻に
「中で何か通り過ぎたよね?」
と聞いたが首を傾げていた。
通り過ぎる音も、影も、実際に聞こえたわけでも見えたわけでもなく
「何か圧倒的な存在感」が通り過ぎたというイメージだ。
幽霊というよりは、何かありがたいものに出会ったような感覚だった。