「同じ夢を毎日見るのよ」
と母が言う。
どんな夢?と聞くと、
布団の上で左目に眼帯をつけた老人が「殺してやる、殺してやる」と恨み言を言い続ける、という気味の悪い夢だった。
それだけの夢なのだがさらに気味の悪いことに、その老人に見覚えがある。
交流は全くないものの、顔見知りの近所に住む老人であった。
寝たきりということだったがまだ存命だ。
老人の、誰かに対する深い恨みを何らかの形で受信しているようだった。
とは言え何もすることはできない。
気味は悪いが夢に見るだけだから、と放っておくことにした。
そんなある日。
不要になったガスボンベのガス抜きをしている際に、ガスボンベの蓋が暴発し、母親の目に当たって怪我をしてしまった。
老人が眼帯をしている左の眼だった。
これは放っておいたらまずいものだ、と直感的に感じた母はお祓いを受けることになった。
自分も同席することになる。
霊媒師がお経か何かを唱えている時、隣の母も目を閉じて一心にブツブツと何かを唱えている。
母もお経を唱えられるんだ、と感心しながら耳を澄ませていると
「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる」
母はそれだけを延々と呟いていた。