続き。
すりガラスの向こうの玄関に黒い影が歩かなくなったら、今度は白い影が現れるようになった。
大きさからして子供だろうと思った。黒い影に感じた禍々しさは、家族の誰もが感じなかった。
Tさんには幼くして亡くなった弟がいた。
遺骨は家においてあり、まだ納骨できていなかった。
玄関を歩く白い影は、その弟なのではないか。
そろそろ遺骨を、お墓に納骨するタイミングなのではないか。
家族でその結論に至ったころから、Tさんは同じ夢を繰り返し見るようになった。
お墓の前に一人立っている。
石板がずらされていて、納骨室が見える。
納骨室の中は真っ暗で底が見えない。
その納骨室の中から子供の泣き声が、延々と聞こえてくるという夢だ。
何度かその夢を見たときに、Tさんは「彼はまだお墓に入りたくないのではないか」
と思った。
家族で相談し納骨を中止すると、夢を見ることはなくなった。
そのお墓にはまだ、誰も入っておらず一人きりになることが寂しかったのかもしれないとTさんは呟いた。