当時住んでいた社員寮には、出るという噂があった。
社員寮の廊下には中庭があって、ベンチが置いてある。
そのベンチに真夜中老婆が座っている、という噂だった。
噂の真相を確かめてやろうと、ある夜中庭を監視することにした。
さすがに廊下に出るのは怖いので、部屋からドアを数センチ開けて眺めていた。
だが深夜になっても老婆が現れる気配はない。
諦めて寝ようとすると、廊下を数人の子供たちがドタドタと走ってきた。
「遊ぼ、遊ぼ」
と言いながらドアの隙間から部屋の中に入り込んでくる。
子供たちがはしゃぐ声が部屋の中から聞こえる。
振り返りたくても、金縛りにあったように体が動かず振り返ることができない。
当然社員寮に、子供は住んでいない。