新居に引っ越してきたばかり頃の話。
新居は二階建ての一軒家で、玄関を開けるとトイレとちょっとした空間があり、
リビングへは一枚ドアを隔てている。
まだ引っ越して間もなく、部屋には段ボールが積まれていた。
当時3歳だった子供を遊ばせながら、片づけをしていた。
すると、遊んでいた子供が突然玄関とリビングを隔てているドアの方を指さして、
「こわいー!!こわいー!!」
と言った。
玄関の方を見ても何もいない。
「どうしたの?何かいるの?」
と半分冗談で子供に聞いてみる。
すると。
「鬼がいる。」
とはっきりとした口調で答えた。
当時子供は幼くはあったが、もうある程度言葉で自分の見たものを説明できるだけの語彙力はあったし、ないものをあると言ったことはなかった。
加えて、本気で怖がっているようにみえる。
「何もいないよ。」
気味は悪かったが、とりあえず子供を落ち着かせてその日はあまり考えないようにした。
もし本当に何かいたとしても人が生活していれば出ていくだろう、とも思った。
それから、しばらく何も起きなかった。
だんだんと「鬼がいる」と言われたことは記憶から薄れていった。
家の片付けも終わり、新しい生活にも慣れつつあった。
ある夜、ようやく家の外構が完成したため子供と一緒に庭に出た。
田舎なので街灯もなく、冬が近かったこともあり真っ暗だった。
スマホのライトで照らしながら庭を散策するが、すぐに飽きてきて家の裏に回る。
すると子供が「おかしいなぁ。鬼居ないなあ、どこにいったんだろう」
という。
鬼のことは記憶から消えかけていたものの、そうかようやく出ていったのかと思い嬉しくなった。
「鬼いなくなったの?」
と聞きながら歩みを進める。
子供はきょろきょろと何かを探すしぐさを続けている。
すると突然、家の裏に設置してあるエコキュートの陰を指さして
「鬼 い たーーーーーーーーー!!!!」
と叫んだ。
外構が完成したその日が、鬼がいると言われた最後であった。
だが鬼は本当に居なくなったのか。
ただ子供が見えなくなっただけで家の裏にまだ立っているのか。
そもそも3才の子供の言う「鬼」は本当にいわゆる絵本に出てくる「鬼」のことを言っていたのか。
それとも「鬼に見えるほかの何か」だったのか。
今となってはわからない。