温泉旅館に泊まった時のこと。
大浴場に向かい、更衣室に入るとガランとしている。
ロッカーの鍵が閉まっているのは一つだけ。
先客は一人だけのようだ。
浴室に入ると曇りガラスの向こうに露天風呂につかっている背中が見える。
他に誰もいないのに露天風呂で鉢合わせるのも気まずかったため、内湯で時間を潰す。
だが、いつまで経っても先客が出てこない。
流石にのぼせてきたので、露天風呂の方に向かうことにした。
露天に続くドアを開けると、露天風呂には誰も入っていない。
露天のドアをずっと眺めていたので、人が出てきたら必ず気づくはずだ。
気になってサウナや他の場所を探したが、曇りガラスの背中の主はもうどこにもいなかった。
帰り際更衣室のロッカーを確認したが、相変わらず鍵は一つだけ閉まったままである。